プロトタイプふじしおさん


 フジハラさんが一番優しいのは明かりを消してからの時間である。シングルベッドに男二人は窮屈だろうに、嫌な顔ひとつせず隣へ招いてくれる。僕の寝床は最初はソファだったのだが、フジハラさんがそれじゃ寝辛いだろうとベッドを半分空けてくれたのだった。新しいベッドを置く余裕はないから、俺と一緒で我慢しろ。
 僕はそれからフジハラさんの上に乗っかったり、腕を枕に使ったり、おなかにしがみついたりして眠る権利を得た。
 調子に乗ってひっついていると、うっかりフジハラさんが欲しくなるときもある。お前若いねえ。フジハラさんはにやにやする。フジハラさんだってまだ二十代の癖に、おやじくさいことだ。フジハラさんの手つきはこなれていて、僕の中では嫌な気持ちといい気持ちが錯綜する。フジハラさんの部屋には写真やアルバムの類は無く、過去にどのような付き合いがあったのかは窺い知ることができない。
 そんなフジハラさんは大きな手のひらで散々僕を翻弄するけれど最後までしてくれることは滅多にない。不満を言ってもどこ吹く風で流される。
「いろんな意味で負担が大きすぎるっつうの」
「全くしたこと無いわけじゃないんですから、毎回したってそう変わらないでしょう」
「お前ね、酷くすると精神障害が残ったり、おむつ暮らしになることもあるんだぞ」
 妙なことを知っている。フジハラさんが「酷くする」なんて考えられないのだが。以前にして貰ったときも、あまり丁寧に時間をかけるものだから途中から優しくされているのだか焦らされているのか判然としなかった。まあとにかく、痛い辛いよりちゃんと気持ち良かったことは確かだ。
「……いつになったら良いんです?」
「オトナになったら、だな」
 僕は憮然とせざるを得ない。
「ハタチまで、あと一年もありますよ」
「たかが一年じゃないか」
 たかがと言うなら今すぐしてくれたって良さそうなものだ。でも何も言えなかった。あんまりごねて、出て行け、などと言われたら困る。フジワラさんから関係を切られてしまったら、生きて行けない。
(最初は衣食住に困るって意味だったんだけど)
 やっぱり女の子がいいですか、僕ではいけませんか。それも聞けなかった。聞いても惨めになるだけだ。
 生きて行けない。


*初期のふたりはもうちょっと爛れていました(笑)
*社会人と大学生が理由もなく同居しているBLを書きたかった名残。




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